研究概要 |
リン酸4カルシウム粉末は試薬リン酸水素カルシウム2水和物(CaHPO_4・2H_2O)と試薬炭酸カルシウム(CaCO_3)を等モル比にて混合(自動乳鉢にて1時間乾式混合)し、電気炉内で1400℃、2時間焼成し、室温大気中にて急冷したものを実験に使用した。リン酸4カルシウム粉末は冷却後、アルミナ乳鉢にて粉砕し、粉末の平均粒度が5.5μmになるように調節した。キトサンは200メッシュ全通させた後、リン酸4カルシウム粉末に添加した。なお、配合量は0.5,1,5,10,20wt%とした。練和液はクエン酸9.9wt%,リンゴ酸39.5wt%,CaHPO40.6wt%,精製水50wt%の水溶液を使用し、粉液比は粉末1.5gに対して液1.0gとし、練和時間は30秒とした。また、比較対照として市販の裏層材2種類を使用した。硬化体の諸性質はADA規格No.61(ポリカルボキシレートセメント)に準じて硬化時間、圧縮強さならびに崩壊率の測定を行った。加えて、象牙質に対する接着強さの測定も行った。接着強さの測定は象牙質試料表面上に内径6mm、高さ12mmのアクリル製パイプをセットし、各セメントを填塞後硬化させた。その後、37℃蒸留水中に保存し、セメント練和開始24時間後の引張接着強さを測定し、以下の結果が得られた。 1.キトサンを配合したリン酸4カルシウムセメントの硬化時間は、キトサンの配合量が1wt%までは短くなる傾向が認められたが、配合量が5wt%以上では長くなる傾向が認められた。とくに、10wt%以上では有意に長くなる傾向が認められた。2.圧縮強さについては、キトサンの配合量が増加するにつれてその強度が有意に減少する傾向が認められた。とくに、キトサンの配合量が5wt%以上ではリン酸4カルシウムセメントの強度の約10%以下の値であった。市販の裏層材との比較では、キトサンの配合量が5wt%以上で有意に小さな値を示した。3.崩壊率に関しては、キトサンの配合量が増加するにつれて有意に増加する傾向が認められた。市販の裏層材との比較では、すべての配合量において有意に大きな値を示した。4.接着強さについては、キトサンの配合量が増加してもその接着強さに有意差は認められなかったが、市販の裏層材との比較ではすべての配合量において有意に小さな値を示した。以上のことより、キトサンをリン酸4カルシウムセメントに配合することは可能であり、裏層材に用いる場合、その理工学的性質を考慮すると配合量は5wt%が限度であると考えられた。
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