補綴臨床においてテレスコープ冠を用いることは、部分床義歯の維持および支台歯と残存歯の保護を図る上で優れた維持装置である。また、長期にわたり使用する場合、着脱による維持力の現象は不可欠であり、特に、その維持力は主に内冠と外冠の金属摩擦、すなわち適合性が大きく関与してくる。したがって、支歯台に対して適合の良好な内冠、外冠作製することは義歯を口腔内に長期にわたり安定させることになる。また、現在の鋳造法では製作工程が複雑なため外冠の形状変化は避けられない。そこで、適合精度の優れた電鋳加工法に着目し以下の結論を得た。 支台歯模型の作製には6度のテ-パ-を有する金型支台歯模型に各個トレーを用いて印象採得しダイエポキシレジンを流し込み支台歯とし、内冠作製には支台に酸化還元反応を用いた銀鏡を付与し模型に電導性を与え、スルファミン酸ニッケル液を主成分とする歯冠用電鋳装置を用いそれぞれの条件において、0.5Aの電流量にて約0.3mmの厚みに電着を行った。次に外冠作製のために内冠についてミリングマシーンを用いてシャンファー形態のカ-バイトバにル-ジュを付け研磨を行った。また、予備実験より、外冠作製のために前処理なしで電着を行うと一体化し離脱が不可能であったため、分離のための表面処理及び表面改質を目的に銀鏡と酸化皮膜が厚いTiNをスパッタリング処理した。さらにその処理した表面に内冠作製時と同条件にて外冠作製を行い、それらについて理工学的検討を行った。以後結果についてまとめる。 1、銀鏡とTiNスパッタリング処理により内冠と外冠は分離し、適合精度の優れたテレスコープ冠が作製可能になった。 2、分離の役目を有した表面処理(銀鏡、TiNスパッタリング)についてケイ光X線を用いて膜厚(面密度)を測定した結果、平均値はそれぞれ咬合面、側面で0.85、0.60um及び2.55、0.55umの値で各面において均一な膜厚であった。 3、非接触型粗さ測定器により内冠研磨面及び内冠上に処理した銀鏡、TiNスパッタリングについてRaを測定した結果、0.13、0.13、0.81umであった。 4、内冠上に処理した銀鏡は粗さにおいて数値的には近似していたが、SEM観察では銀鏡面には一面に細かい粒子が存在しそれが分離後、銀鏡は外冠内面に密着していた原因と考えられた。以上のことから電鋳加工法により、表面性状の優れた内冠と適合精度の優れた外冠の製作が可能になった。
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