全部床義歯装着者を対象として、実験用義歯の床粘膜面に超小型半導体圧力センサを埋入し、咀嚼時の義歯床下粘膜に対する局所負担圧の動態を観測することにより、咬頭嵌合位の質的な変化が義歯床下粘膜への局所負担圧の分布様相に及ぼす影響を追究した。実験は、30度人工臼歯を用いて新たに製作した上下顎全部床義歯3症例について、まず使用中の義歯を複製した実験義歯(以下A-denture)を装着させて床下局所負担圧と下顎運動を観測した後、義歯を一旦咬合器にリマウントして咬合面の削合調整を行い、前後的に約2mmのPlatter状の咬頭嵌合位を付与したのちに(以下NA-denture)同様の観測を行った。結果の概要を以下に示す。 1.A-denture装着時では、咀嚼側の測定部位おける圧ピーク値は非咀嚼側より早期に発現するとともに有意に大きい値を示し、ピ-ナッツ咀嚼の場合、上顎歯槽頂部で約115KPa、下顎では約200KPaであった。 2.NA-denture装着時においても、装着直後よりほぼ同様の傾向が見られた。 3.3例中1例については、NA-denture装着時に非咀嚼側で圧の増大と持続時間の延長を認めたが、被験者はA-denture装着時との違いを自覚し得なかった。このことは咬頭嵌合位に「場」が生じたことで、食物かみしめ時に無意識に非作業側方向への力を加えていることを示唆するものといえる。 4.今回は、咬頭嵌合位が明確な義歯から不明確な義歯への変化のみを捉えたが、さらに逆の装着実験の場合、また長期間の装着における順応についても検討すべきと思われる。
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