口腔癌において、紫外線による励起蛍光を発するのは癌組織自体ではなく表層に付着した壊死組織に限局していることが判明したため、口腔癌の一次症例に対し、紫外線蛍光撮影後、壊死組織を綿棒でぬぐい取る方法にて試料を採取した。採取した蛍光物質は、遮光した容器に入れて-20度にて凍結保存することにより、保存可能であることを確認した。さらに、綿棒を紫外線ランプ内蔵のクロマトビューキャビネットにて観察したところ、紫外線蛍光撮影写真と同様な蛍光が綿棒の先端に認められた。このことから、写真撮影・フィルム現像という過程を経ないでも、簡便な方法にて紫外線蛍光を直接観察するという診断法が可能であることが示唆された。採取できた試料は極微量であるため、10人の癌患者から得られた試料をもとに、各種の溶液および変性剤を用いて蛍光物質の可溶化を試み、効率的な抽出法を検討したが、現段階では結論を得るには至らなかった。 ハムスターの実験的誘発舌癌における紫外線蛍光の有無を検討した。ハムスターの舌には、9〜11週目に乳頭腫形成を認め、15週目頃より明らかな癌形成を認めた。紫外線蛍光撮影は、17・18・20週目に行った。発癌操作をしていない反対側の健康な舌および乳頭腫病変においては紫外線励起蛍光は認められなかった。しかし、発癌を認めたものには、ヒト口腔癌と同じ紫外線蛍光を認めたとともに、腫瘍の増大に伴い蛍光を発する部位の拡大が確認された。このことから、ハムスターの実験的誘発舌癌は、口腔癌の紫外線蛍光診断法における基礎的実験系として有用であることが示唆された。 今回の研究において、採取出来た試料が極微量であったため、ポルフィリンとの関連を直接検討するには至らなかったが、より簡便な紫外線蛍光診断法の確立および基礎的実験系の確立という今後の研究を進める上で二つの重要な知見が得られた。
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