研究概要 |
高齢者の増加にともない口苦感等の口腔内不定愁訴や口腔領域の慢性疼痛性疾患を有する患者は増加しつつある。鍼通電は,疼痛治療に多く用いられているが,治療後の口腔内診査で唾液量の増加がみられることがあり,同時に疼痛や口苦感の緩和も観察されることがある。そこで、鍼通電の疼痛緩和作用と唾液分泌に対する作用の関連を予想し、健常者および口腔内不定愁訴を有する患者で鍼通電前後での唾液分泌量の差を検討した。 対象は,健常若年者群および味覚異常を有する高齢患者とした。両群において鍼通電前後の唾液分泌量(若年者群では安静時量と機能時量、高齢患者では安静時量)を測定した。安静時量は,歯科用ロールワッテを用い唾液腺開口部に5分間留置し,重量法にて行なった。機能時量は,ガムテストを3分間行い,重量法にて測定した。鍼は,左右大迎および左右迎香に刺入し、通電は2Hz,20分とした。高齢患者では,鍼通電前後の不定愁訴などの自覚的症状の程度を調査した。また、若年者群および高齢患者で電気味覚計を用い鍼通電前後の味覚閾値を測定した。 若年者群10名(男性7名、女性3名、年齢26±1.9歳(Mean±SD))での、安静時唾液量は鍼通電前後でそれぞれ0.43±0.22g/min、0.48±0.25g/minであり、変化は認められなかった。機能時唾液量は、2.78±0.83g/minから3.40±1.44g/minと増加していた。高齢患者は味覚異常を有する患者(77歳女性)1名で3回測定を行ったが、安静時唾液量は0.13±0.06g/minから0.07±0.02g/minと鍼通電後にむしろ減少する傾向がみられたが、患者の自覚症状は毎回、軽度改善が認められた。味覚閾値は、若年者群、高齢患者とも鍼通電前後で大きな変化は認められなかった。味覚異常を呈するこの高齢患者では、若年者群に比べ明らかに高い味覚閾値を呈した。 今回の研究では、健常若年者群での機能時唾液量の増加の機序はあきらかでなかった。また、高齢患者に関しては、今後さらに研究を進める必要があるが、唾液分泌以外の機序も鍼通電の症状緩和作用に関与していると予測された。
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