1994年7月より、1995年3月まで当科において顎骨変形症と診断され、外科的矯正手術を行った症例のうち、術前に前歯部開咬症および欠損歯がなく、上下顎正中に偏位のないもの(手術時に正中線の修正を行わないもの)を対象として研究を行った。症例は全部で7例(17歳-26歳)で、性別は男性1例、女性6例である。症患別では、骨格性の下顎前突症患者が6例、上顎前突が1例であった。 資料採取は、手術前日、術後1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月を採取時期とし、リオン社製軟質人工口蓋を装着させて舌と口蓋の接触様式の観察を行いつつ音声サンプルをDATに録音した。また、同一条件下での健常者の構音状態を観察し、比較検討を行うため、日本アナウンス学院に協力を仰ぎ、日本語の発声訓練を受けた正常咬合者10名について資料を採取した。 その結果、舌と口蓋の接触様式は手術にともなって健常者に近い状態へ変化を示し、CSL-4300B(KAYEIemetrics USA)システムによって検討した音声の音響特性も、手術前後では有意に変化を示し、術後にはより健常者に近い特性を示した。 以上の結果により、顎変形症患者における構音障害は外科的矯正術にともなって生ずる舌と口蓋の接触位置の変化が誘因となって消失することが確認された。 この結果は、1995年6月にハンガリーで行われる国際口腔外科学会において報告を予定している。
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