ラットを用い、動物実験的にエピネフリン含有リドカインを口腔粘膜下および静脈内に投与した場合の脳循環反応の相違を検討し、体血圧と局所脳血流量の変化について時間的要素を加え分析することで脳循環自己調節能の様式を探った。 その結果、口腔粘膜下投与群では、血圧上昇は緩やかであり240秒でピーク値に達した。一方、静脈内投与群では投与直後に一過性の低下を認めたもののその後は上昇傾向を示し、60秒後にピーク値に達した。また、局所脳血流量は両群とも血圧変動に追従する形で上昇し、それぞれ対照値に対し20%と40%の変化を認め、各ピーク値に達する時間も、血圧の場合とほぼ一致した。平均動脈圧と局所脳血流量の関係を知る目的でautoregulation curveを作成したところ、平均動脈圧が70mmHgから120mmHgの範囲では、局所脳血流量は比較的安定していた。さらに、動脈圧が最大に上昇したときの局所血流量の変化からRelative slope ratio(RS)を比較した。RSは、同じ血圧変化量でどれだけ脳血流量が変化するかを示したもので口腔粘膜下に投与した群に対し静脈内投与した群では、約1.7倍の値を示した。これにより同じ血圧上昇度でも、それに要する時間により脳血流量の変動パターンが異なることが示唆された。血圧変化と脳血流量変化の関係を詳細に知る目的で、単位時間当たりの平均動脈圧変化率と局所脳血流量変化率の関係について検討した結果、口腔粘膜下投与群と静脈内投与群の間には、正の相関関係を認めた。血圧上昇速度が0.5mmHg/sec以下がほとんどであり、この場合の局所脳血流量変化率は、0.5%/sec以内の増加率に留まった。このことからラットにおいては、0.5mmHg/secが1つの境界点になると考えられた。
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