歯科矯正治療において、通常、歯の移動が行われる。その中で最も普及している歯の移動装置は、マルチブラケット装置であり、これは、歯とワイヤーをつなぐアタッチメント(ブラケットと呼ばれる)と、直径0.4mm程度のワイヤーより構成されている。この装置を用いる歯の移動方法の一つに、ブラケットに矯正力を加え、ワイヤー上を滑走させる方法がある。 この滑走の際の、歯の移動様相について、ブラケット、ワイヤー、歯、歯根膜、歯槽骨よりなる有限要素モデルを作製し、歯の移動の即時変化と初期変化それぞれについて、東京大学大型計算機センターM-880(日立製作所)コンピュータと構造解析ソフトNASTRAN(日本エムエスシ-株式会社)を用いて解析を行った。即時変化は、ワイヤーとブラケットの滑走状態における瞬間弾性変形とし、初期変化は、ワイヤーとブラケットの固着(静止)状態から生じる歯槽骨の応力緩和変形とした。 その結果、即時変化の場合、歯根中央部を中心にした反時計回りの回転(傾斜)移動であり、初期変化の場合、ブラケットを中心にした、即時変化と逆の時計回りの回転(直立)移動であった。 このように、ブラケットの滑走状態と固着状態で、全く違った歯の移動様相がみられたことで、この滑走状態と固着状態の繰り返しにより、実際の歯の移動が生じている可能性が示唆された。
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