本研究は、高齢者の口腔内における義歯などへのプラーク付着に関する、Candidaとmutans Streptococci(m.S.)がどの様な相互関係にあるのかを考察する目的で、調査的および実験的研究を行った。 調査的研究においては、65歳以上の高齢者約100名の口腔内細菌を部位別に採取し、Candidaとm.S.のコロニー数、共存率、相関などを検索した。Candidaに関しては、義歯の装着状況との関連がみられた。義歯装着者は非装着に比べ明かにCandidaの検出率が高く、コロニー数も多い傾向にあった。しかし、義歯の清掃状態が良好の場合はコロニー数は少なく、検出率も低い傾向にあった。また、従来あまり注目されていない残存歯やクラスプ部分にもCandidaが多く検出され、これらの部分はm.S.との共存率も高く、両菌のコロニー数に正の相関が見られた。 実験的研究においては、Candida albicansとStreptococcus mutans(S.m.)を混合培養し、レジン片に付着した菌塊を走査電子顕微鏡にて形態的に観察した。S.m.はショ糖の存在下で不溶性グルカンを産生するが、両菌は不溶性グルカンと共にレジン片に付着している像が観察された。しかし、両菌の菌体表面における接着像はあまりみられなかった。そこで、不溶性グルカンの産生能が低いS.m.の変異株とCandidaを混合培養したところ、両菌が菌体表面において接着している像が各所でみられた。 以上、高齢者で口腔清掃状態があまりよくない場合、義歯、クラスプや残存歯などのプラークにはCandidaがm.S.と共存している場合が多く、実験的にも両菌の共存像がみられた。そこで、m.S.に対して抗菌作用が報告されている生薬である厚朴を高齢者のプラーク付着抑制に応用することを考え、厚朴のCandidaに対する抗菌作用の実験的研究も実施しつつあり、さらに検討していきたいと考えている。
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