一般に大気汚染の程度を鉛含有量で表現する場合も多く、今回は大気および乳歯中の鉛含有量について、相関を検討した。本研究で対象とした地域は、乳歯試料との関係もあり都市型の研究となったが、東京23区、横須賀、札幌、仙台、郡山、名古屋、大阪、岡山、福岡、鹿児島の10地域とした。各地域の大気中の鉛含有量は昭和38年頃より観測が行われている地域もあり、年度および計測機器による変動もあるものの、昭和50年2月のレギュラーガソリンへの鉛添加規制各地域で減少が示され、東京においては昭和42年の調査で各計測値の平均で136ng/m^3であったものが昭和50年には52ng/m^3示し漸次減少傾向が示され、現在では10ng/m^3前後を示した。そこで、各地域の住民の実際の暴露量については判定することは難しいが、年代および地域による平均の含有量により以下のように各地区を分類した。大気中の鉛含有量がその他の地域に比較して高い地域、大気中の鉛含有量がその他の地域に比較して低い地域、さらに両地域の中間に位置する地域に大きく分類した。さらに、乳歯中の含有量については、汚染程度の高かった昭和50年以前後2-3年に出生したものと、それ以後に出生した子供から採取した乳歯を研究対象とし、これから大気中濃度と乳歯中の鉛濃度を比較した。大気中の濃度が高かった昭和50年前後の乳歯については、大気中の鉛含有量が減少してから出生した子供に対しその含有量は、比較的大気中濃度の高い地域では年代間の相違は10倍から2倍を示し、相関計数0.642で高い正の相関が示された。また、相対的に大気中の鉛含有量が低い地域においても、昭和50年以前では大気中および乳歯中の含有量が高く、0.325の正の相関が示された。歯質の鉛含有量と大気中の鉛含有量は、高い正の相関を示し、歯質は生体のbody burdenとした優れた材料と考えられる。
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