研究概要 |
ヨーロッパから入手した苔類,Frullania dilatata,Marsupella aquatica,M.emarginataおよびScapania undulataの4種について成分研究を行った.それぞれのエーテル抽出物は,申請した中圧液体クロマトグラフィーやフラクションコレクターなどを駆使し,各成分を単離,精製し,構造決定を行い,以下のような結果を得た. 1.Frullania dilatataからは,3種の新規転移エントスピロオイデスマン型および2種の新規エレモフィラン型セスキテルペンと2種の既知セスキテルペンを単離し,構造決定を行った.また,転移エントスピロオイデスマン型セスキテルペンは,天然物からの報告例は少なく,苔類から単離されたのは今回が最初の例であった. 2.Marsupella aquaticaからは,1種のジムノミトラン型セスキテルペンと5種の既知セスキテルペンを,さらにM.emarginataからは,1種の新規ロンギピナン型セスキテルペンと4種の既知ロンギピナン型セスキテルペンを単離し,それぞれの構造を決定した.その結果,上記2種の苔類に共通して主成分として得られるロンギピナン型セスキテルペンは,日本産の種にも主成分として含まれていることから,同種のケモシステマティクスの研究を行ううえで重要な指標化合物となりえることが,今回の研究でさらに裏付けられた. 3.Scapania undulataからは,3種の新規カジナン型および1種の既知カジナン型セスキテルペンを単離,構造決定した.日本産S.undulataはロンギホレン,ロンギボルネオールなどのセスキテルペンを主成分とし,カジナン型セスキテルペノイドを含まないことから,S.undulataには2種のケモタイプが存在することが明かとなった.現在苔類の分類は,第二次代謝物質を無視しては議論できない程,上記のようなデータが苔類学者から重要視されている.
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