研究概要 |
経口投与後の薬物の胃腸管内動態のモデル解析により,胃排出および腸管吸収の速度定数を推定する方法を考案した.腸管吸収速度定数は,さらに,腸管腔内容積,腸管膜透過性という二つの生理学的パラメーターにより記述される.解析方法の妥当性の確認を兼ねて,ラットにおいて,L-glucose(モデル薬物)の吸収に及ぼす投与液量,摂食条件(絶食,非絶食)の影響を検討した結果,投与液量の増大に伴う胃排出の促進と腸管吸収の低下,および絶食による腸管吸収の上昇が認められた.さらに,腸管吸収の変動は主として腸管腔内容積の変化によるものであり,腸管膜透過性には変化がないことが示された.今回の実験処置が腸管膜透過性に影響を及ぼす可能性は本来極めて小さいことから,解析方法の妥当性が確認されたものと判断した. 応用として,ラットにおいてD-xylose(腸管吸収機能検査薬)の経口吸収の加齢に伴う変化に関する解析を行い,吸収速度定数およびその決定因子としての胃排出,腸管腔内容積,腸管膜透過性に変化がないことを見出した.また,同時に,加齢に伴う吸収率の増大を認めたが,これは腸管通過の遅延によるものと考えられた. また,ラットでの麻酔下灌流法が腸管膜透過性の評価のためのモデル系として汎用されているが,麻酔条件により腸管膜透過性が変化することが示された.データの解釈ならびに上述のモデルに適用しての経口吸収の予測には注意を要すると考えられる.経口投与時(in vivo)における膜透過性との関係を明らかにし,補正方法等を考案することが,今後必要であろう.
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