研究概要 |
ニコチン様アセチルコリン受容体チャネルのcDNAをイギリスおよびアメリカの研究グループより入手し,アフリカツメガエル卵母細胞に2種類の方法を用いて発現させた.一方はcDNAより転写したRNAの細胞内への注入であり,他方は真核細胞発現型プラスミドを用いたcDNAの核内注入である.いずれの方法でも機能的なアセチルコリン受容体チャネルは発現したが,RNAを用いる方が安定した発現が得られた.以下,この方法でATPの作用を検討した.ATPはこの卵母細胞において100fM-1μMという低濃度でアセチルコリンにより惹起される電流を抑制した.この抑制は受容体チャネルを構成するサブユニットの組合せを変化させた場合でも観察された.抑制の度合は膜電位変化には影響されなかったが,アセチルコリンの濃度を上昇させることにより減弱した.ADP,UTPのようなATPの関連化合物も同様にアセチルコリンによる電流を1μM以下で抑制した.一方,ドパミン受容体あるいはセロトニン受容体といった他の神経伝達物質の受容体に影響する薬物でもアセチルコリンによる電流は抑制されたが,抑制に必要な濃度は3-1001μMとATPより高いものであった.以上のことから,アセチルコリン受容体に高親和性のATP結合部位があること,そしてこの結合部位が受容体チャネル抑制を惹起することが初めて示された.この様な抑制は並行した行った神経細胞様培養クローンPC12細胞でも観察されており,生体内でのATPによるニコチン様神経伝達の抑制性調節を示唆するものである.
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