研究概要 |
今回、胃酸分泌における胃壁細胞基底側膜Na・K輸送機構の役割を明らかにする目的で、摘出胃標本を用いてそれら輸送機構に作用する化合物の胃酸分泌に対する作用を検討した。本研究の結果を次に2点に要約した。 1.Kチャネルの役割:非選択的Kチャネル遮断薬であるTEAはbethanechol刺激およびhistamine刺激酸分泌を抑制した。一方、A23187あるいはDBcAMP刺激に対してはなんら作用を示さなかった。小コンダクタンス型Ca活性化Kチャネル遮断薬apamin、あるいはATP感受性Kチャネル遮断薬glybenclamideはいずれの刺激酸分泌に対してもなんら影響を示さなかった。今回の検討の範囲内では刺激酸分泌とKチャネルの関連性は認められなかった。 2.Na,K-ATPaseの役割:Na,K-ATPase阻害薬であるouabainは刺激酸分泌を抑制した。しかし、その作用態度は酸刺激薬の種類によって若干異なっていた。すなわち、bethanechol誘起酸分泌に対しては投与直後から抑制を示し、histamine誘起酸分泌に対しては一過性に増大させ、それに続き抑制した。また、DBcAMP刺激においてもhistamineと同様な結果が得られた。このouabain投与直後に観察される一過性増大は、atropineの前処置によって消失した。非刺激状態の胃標本においてもouabainを投与すると胃酸分泌が引き起こされた。Ouabain誘起酸分泌はtetrodotoxin、atropineの前処置によって完全に消失した。摘出胃標本における今回の結果より、ouabainは胃壁細胞に働き胃酸分泌を抑制する作用と、迷走神経節前線維に働き内因性acetylcholine遊離を介して胃酸分泌を増大する作用を併せ持つことが示唆された。Ouabainは内因性に存在することが見い出され本態性高血圧との関連で注目されているが、今回の知見は生理学的状態あるいは病態時における内因性ouabainの胃への影響を考える上で興味深い。
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