研究概要 |
細胞の癌化に伴い,細胞表面の複合糖質に変異が生じ,細胞が新たな抗原性を獲得することが知られているが,糖タンパク質糖鎖に特異的な癌関連抗原は、わずか3種類が報告されているにすぎない。そこで、牛顎下腺ムチンを免疫原として,ムチン型糖タンパク質特異的な単クローン抗体を作製した。それらのうちのいくつかは,ヒト卵巣癌組織と反応したため,その抗体の反応特異性と,抗原の発現様式について解明した。 (1)ヒト卵巣癌組織と反応する単クローン抗体が認識する糖鎖構造の解析 (a)種々の複合糖質と抗体との反応性の検討 卵巣癌組織と反応する単クローン抗体の1つの6G9は,免疫原のBSMとは強く反応する一方で,アシアロBSMや,de-O-acetyl BSM,ヒツジ顎下腺ムチン,ヒト胎便糖タンパク質などとは反応しなかった。 (b)抗体の認識する糖鎖構造の決定 1.グリコシダーゼ消化 BSMをシアリダーゼ消化すると反応性を消失したことから,抗体は,シアル酸を含む糖鎖を認識している。 2.糖鎖の単離とその反応性の検討 BSMから単離した,O-acetyl基を含む糖鎖は,抗体との結合活性を保持していた。この糖鎖を,HPLCで分画したところ,低分子のシアル酸を含む画分が抗体との反応性を持っており,O-acetyled sialyl Tn抗原を抗体が認識していると推定することが出来た。 (2)ムチン型糖鎖に発現する癌関連糖鎖抗原の発現様式の解析について (a)抗体と培養癌細胞の反応性の検討 ヒト結腸癌培養癌細胞の約10%ほどの細胞が,単クローン抗体と反応した。染色の様子から,抗原は,細胞表面に局在しているように思われた。 (b)抗原分子の精製 単クローン抗体を固相化した樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより,培養癌細胞から抗原分子を部分的に精製した。抗原分子のを解析するために,さらに精製を進める予定である。
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