小腸上皮細胞において物質輸送に関わる細胞膜輸送担体に関して、外来性遺伝子発現系を用いた研究を行った。外来性遺伝子発現系としてはアフリカツメガエル卵母細胞を用い、小腸上皮細胞から単離したmRNAを卵母細胞にマイクロインジェクションし、数日間培養後、種々薬物の輸送活性発現の有無を測定した。薬物としてジカルボン酸型β-ラクタム抗生物質のセフチブテンおよび両性イオン型のセファドロキシルを用いた。 ラット、家兎及びヒトいずれのmRNAによっても、両β-ラクタム抗生物質について新たに輸送活性が発現した。そこでラットmRNAを用いて詳細な輸送特性について検討を行った。その結果、両誘導体について至適pHに多少の差はあるものの、いずれも酸性pHで輸送活性が増大した。これはこれまで小腸刷子縁膜小胞などの実験系で得られた輸送のpH依存性と一致するものであった。さらにジペプチドによる阻害、基質濃度飽和性なども観測され、他の消化管組織を用いた実験系で得られた特性と一致した。一方、消化管吸収性が非常に低いモノカルボン酸型誘導体セファゾリンについてはこのような活性は生じなかった。以上の結果より、一部のβ-ラクタム抗生物質は、小腸刷子縁膜において共通してジペプチドトランスポーターを介して輸送されることを明らかにすることができた。また、これまで担体を介した消化管吸収機構に動物種差が報告されてきたが、本研究結果よりヒトを含めいずれの動物においても吸収に担体介在輸送が関与することを初めて明らかにすることができた。
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