複数の電車路線を利用して通学・通勤する場合、人はそれぞれの温熱状況に応じて環境適応を行っているだろうか。本研究では、電車内の温熱環境の実態を把握し、車内温熱環境に対する温冷感・快適感および電車利用者の着衣行動を季節別に検討した。関西で通学・通勤している18〜29歳の男女を対象に、留意自記法によって、アンケート調査を行った。調査時期は、春:5月初旬、夏:9月初旬そして冬:12月初旬であった。主な調査項目は、通学・通勤時の電車利用の実態、その時の着衣状況、電車内での主観的温冷感・快適感など、とした。また、冷暖房時期に電車内の温熱環境(温度、湿度、気流)を測定し、同時に、京阪神の電鉄会社7社に冷暖房実施時期や、その時の電車内設定温度などに関しての聞き取り調査を行った。調査対象者総数1005名のデータを解析に供した。 1)電車内の設定温度は、冷房時に25〜28℃、暖房時に18〜20℃であり、通産省の通達よりも冷房時は低く、暖房時は高い傾向にあった。また、それらの値と実測した電車内の環境温度には差がみられ、特に冷房時の温度のばらつきが大きかった。2)電車内で温熱的に不快を訴えた者の率は、春:42%、夏:29%、冬:35%であった。その内、暑さ不快を訴えた者は、春および冬にそれぞれ90%、95%に達していた。3)快・不快には、電車の混み具合、体調、性、季節、着衣量などの要因が関与していた。4)電車内でなんらかの衣服調節を行った者は、平均9%、最も多くみられた冬期においても12%と僅かであったが、その内の87%の人が衣服調節による効果を認めていることがわかった。一方、快適に過ごすために、なんらかの工夫は必要だと感じたがしなかった者の率は、春:23%、夏:14%、冬:17%であった。以上のことから、電車内において温熱的に不快である時に、衣服の着脱などによる衣服調節は非常に有効であるが、実行する人はまだ少数であることがわかった。
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