本研究は今日の日本の多岐化した衣生活の状況及び被服観を明らかにし、今後の展望を目指すものである。そのためには現代型衣生活の成立過程を時系列的に分析し、変化の要因を論究することが不可欠である。申請者はこれまでに(1)流行動態(2)既製服等生産側の動向(3)販売側の動向(4)着用者の意識変化の視点で、昭和初期から現在までの衣生活の諸相を追究してきた。さらに1960〜91年のゆとり量分析等の(5)衣服自体の形態変化を詳細に分析した。本研究では、(4)(5)の成果をより完全なものとする目的で、1952年から現在まで実際に着用されたと考えられる衣服の製図・写真・文献資料を分析し、衣服形態と着装の変化と被服観の変容及びその関連を究明した。 アメリカ合衆国では衣服自体の形態やデザインの変化を時系列的に詳細に分析した研究が見られるが、日本ではこの種の本格的研究は未だなされていないため、本研究では、詳細なデータ分析による時系列的考察を試みた。 1まず資料として読者の異なる『装苑』・『婦人公論』から写真資料及び着装観に関する記事資料を渉猟した。申請者はすでに1960年から1991年までのジャケットの製図6600点を収集し着装観の変容について分析・発表してきたが、この期間の資料に関しては、九州地区の大学・公共図書館では閲覧できないものが多いため、不足分については国立国会図書館等に出張し、1952年から1992年までのあらゆる服種について2021点の資料を収集した。 2資料の分析の機動性を高めるため、マッキントッシュのパワーブックを購入し、資料整理・分析を行った。 3上の分析より、現代型衣生活の成立過程と捉えられるこの期間に、読者の層や年令にかかわらず各部のディテ-ル・衣服形態・着装の仕方に明らかな変化があり、それらが今日の被服観を形成していることを見出した。 4従来の新聞・雑誌の記事に見られる人々の被服観に関する分析で得た成果を本研究で実証的に裏付けられた。
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