研究概要 |
小豆を用いて,子葉組織内デンプンの糊化に関する実験を行い,以下の結果を得た。 (1)小豆の子葉組織の示差走査熱量測定(DSC)を行ったところ,子葉組織内デンプンのDSC曲線は,細胞内デンプンのDSC曲線とその形状はよく一致したが,開始温度,ピーク温度,終了温度の糊化の特性値はそれぞれ約2〜3高温であった。組織内デンプンの糊化は,単離デンプン,細胞内デンプンに比較して抑制されることが明らかとなった。 (2)組織内デンプンの糊化抑制の要因として,以下の2点が考えられる。すなわち,(1)細胞内デンプンの糊化と同様に一部の糊化が高温部で糊化が生じる原因として,組織内デンプンの糊化の際の組織内が低水分であること,(2)組織中に含まれる水溶性成分の関与のために糊化の特性値が高温側にシフトすること,である.組織構造の強靭さは,組織内デンプンの糊化に対してほとんど影響を及ぼさず,組織内デンプンの糊化の際に必要な水の供給が不十分であることが糊化抑制の主原因であると考えられた. (3)単離デンプン,細胞内デンプンを用いて水分と糊化の特性値(融解温度)の関係を求め,組織内デンプンの糊化の際の水分を推定してところ約55%であった。これは細胞内デンプンの糊化の際の細胞内の水分(約56%)とほぼ一致した. (4)水分の供給が不十分であることによって生じる高温部の糊化は,加熱前処理の影響を受けず,低温部の糊化とはことなる機構で生じることが確認された. 以上の結果から,小豆の組織内のデンプンの糊化は,主として組織内デンプンを取り巻く環境が低水分の状態となることにより抑制されると結論付けられる.また,組織中に含まれる水溶性物質も,その寄与の程度はわずかではあるが組織内デンプンの糊化に関与すると考えられた.
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