本研究では、様々なニオイ環境に適した衣服素材を検討することを目的として、全身、および末梢皮膚温、脳波、心電図、血圧、の生体反応の測定と官能検査を行なった。 用いたニオイはローズ油、レモン油、ラベンダー油、オレンジ油、パインニードル油の香料5種と、尿臭のアンモニア、油臭のヘプタノール、汗臭のイソ吉草酸、魚臭のトリメチルアミンの生活臭4種の合計9種である。まず本研究では、ニオイ環境の違いによる生体反応の差を検討するため、被服素材として、綿100%シ-チングに9種のニオイおよび純水を吸着させ用いた。被験者は嗅覚異常のない成人女子である。実験は環境温湿度一定の既存の恒温室内で実施した。全身及び末梢皮膚温の測定には、現有のサーミスタセンサーとサーモビュアーを、脳波、心電図、血圧の測定には現有の多用途波計、を用い本設備備品費で購入の脳波解析プログラムにより解析を行ない、任意の周波数帯域別の含有率グラフや、数値データを求めた。官能検査として温冷感、快適感の申告を行なった。 その結果、以下の知見を得た。 1.平均皮膚温は、香料臭で下降し、生活臭で上昇する傾向が見られた。 2.サーモビュアーによる末梢部(手背)表面温の測定においても平均皮膚温と同様の結果が得られた。 3.C3、C4、01、02の4部位より導出した脳波基礎律動のα波及びθ波帯域のパワー値より、イソ吉草酸及びレモン油が覚醒水準を高め、ラベンダー油には緊張を抑制する作用があることが示唆された。 4.心拍数はオレンジ油及びローズ油で減少する傾向が見られた。 5.血圧は香料で低下し、生活臭で上昇する傾向が見られた。 6.温冷感は香料でやや寒く、生活臭でやや暖かく感じる傾向が見られた。快適感は香料で快適に、生活臭で不快に移行する傾向が見られた。 以上の結果より、香料はより快適な生活空間の創造に有効で あり、また温冷感や皮膚温の変化から省エネ対策にも利用できそうである。生活臭は生体への影響が大きく、不快感、緊張感を高める効果があることがわかった。今後は特に、生活臭において衣服の素材を変化させて、生理的、心理的負担の少ない素材の検討を行なっていきたいと考える。
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