村田らが行っている魚介類の鮮度と風味に関する一連の研究の中で、魚類の呈味成分に生理活性機能が存在することを予測し、即殺直後のヒラメ筋肉エキスに血小板の凝集を抑制する作用があることを認めたのを受け、本研究によりさらに発展を試みた。魚類中には極めて新鮮な状態では多量のATPが、死後しばらく経過したものではIMPが、さらに分解の進んだ筋肉ではHxRやHxが蓄積する。すでにAMPには血小板凝集に対する抑制工かのあることが知られているが、これらにもAMP同様に血小板凝集抑制作用があるのか、筋肉エキスを用いて調べたところ、即殺直後のPCA抽出液には凝集抑制効果が認められたが、同じ即殺直後でも熱水抽出液には同効果が認められなかった。このことより、ATPが抑制作用に関与していることが示唆された。しかし、この即殺直後のPCA抽出液中に含まれるATP-関連化合物の組成になるようにヌクレオチド類の標準品を組み合わせても、即殺直後PCA抽出液で認められたほどの抑制効果は認められなかった。従って、ATP-関連化合物のみが抑制効果を担っているのではないことが明らかになったが少なくとも、他のエキス成分が一部を担っているか或は相乗効果を果しているものと推察される。高度不飽和脂肪酸が人の血小板凝集を抑制することは知られている。本研究で行った抽出条件ではこの高度不飽和脂肪酸が抽出されないことから、魚肉中にはこれ以外に同効果を持つ物質があることが明らかになった。また、今回の抽出条件では、刺身のように生で食べる場合と、煮たり、焼いたりといった加熱調理をして食べる場合とを想定したが、調理方法の違いにより抑制効果に差があることが判明したことから今後はこれらの生理生活を有効に利用する処理方法を検討する必要がある。
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