多くの疫学の研究において、食品中に含まれるβ-カロチンには発ガン抑制作用のあることが示されている。そのβ-カロチンの発ガン抑制作用は、β-カロチンの抗酸化作用を介していると考えられているが、明確にはされていない。そこで、人リンパ球にX線照射を行って酸化的な染色体損傷を惹起させる実験系において、β-カロチンの染色体損傷抑制作用と抗酸化作用の関連性を検討した。 人の末梢血を全血の条件下においてX線照射したとき、β-カロチンを負荷した人から得たリンパ球は染色体損傷が起き難くかった。また、その時の血液中のβ-カロチン濃度とX線照射により惹起した染色体損傷度の間には有意な逆相関性が認められた。単離したリンパ球の条件下においても、β-カロチンはX線照射による染色体損傷を抑制した。これらの結果は、β-カロチンがX線照射による酸化的な染色体損傷を抑制することを示しており、血液中β-カロチン濃度と発ガン率の間に逆相関性があるという疫学の研究結果と非常によく一致した。 β-カロチンがX線照射による染色体損傷をその抗酸化作用を介して防御しているのなら、リンパ球中のβ-カロチン濃度がX線照射前後において変動する可能性があると考えられる。そこでX線照射前後のリンパ球のβ-カロチン濃度を測定した。しかし、X線照射によるβ-カロチン濃度の有意な低下は検出できなかった。すなわちこの結果は、X線照射により誘発した染色体損傷のβ-カロチンによる抑制作用が、必ずしもその抗酸化作用を介してはいないことを示唆した。この点に関しては今後さらに検討する予定である。
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