研究概要 |
我々は,1990年7月〜8月の約二ヶ月間にわたる高地医学の研究のため、中国青蔵高原に,学術調査隊を派遣し,調査実験を行なってきた.その中で,呼吸パターンを変えることにより,Sa02が有意に改善されることが解った.我々は,この呼吸方法を運動時のSa02の改善に応用出来ないかと考え,この呼吸方法の利点を伴った,マスクを開発し,実験した.その結果,もし同じ換気量であった場合には,マスクを付けた方が,運動中においてもSa02が改善されることが推測できた.そこで,患者の酸素吸入簡易マスクを改良し,有効的なマスクを開発した.このマスクを装着し,フィールドにて被験者に,2kmをできるだけ速く走ってもらうと,マスクを装着した場合は,なにも装着しない時に比べ,Sa02の値が良くなり,時間も短縮されたが,効果のない被験者も現れた.これより,マスクの有効性は,(1)マスク装着時における吸気,呼気の微調節によって異なる.(2)個人差がある.(3)運動強度に作用されるといった課題が残った.これらの課題を解決するために,今度は,防塵マスクを改良(酒井,寺沢共案.S-Tマスク)し実験を行なった.その結果,マスク装着の被験者が2kmをトレッドミルにて走行すると,何も装着しない時よりもSa02の値は高く,HRの値は低い値を示した.また,フィールドにてマスクを装着し,走行するとSa02の値は高く,記録も9秒短縮された.マスクの性能も良くなり,成績的にも向上してきたものの,被験者の中には依然成績の向上が見られない者もいた.しかし,理論的にはマスクの弁に適切なスプリングを装着する事により,マスク内の圧が一定に保たれれば,この問題は解決できるものと確信している.3月からスプリング会社との契約も結ばれ,大きな期待が寄せられている.予算的に多少の不安もあるものの,より確実なマスクを開発し,このS-Tマスクを実用化させて行く考えである.
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