水泳は数あるスポーツ種目の中でも比較的障害の少ない種目であるが、溺水や飛込みによる頚椎損傷など、極めて危険な一面も有している。飛び込みの空中での動作とそれを発現させる諸筋活動との因果関係が不明であり、スタート台のけり方、空中で各関節にどのようなシークエンスでトルクを与えるかなど、飛び込み動作の指導上欠かせない、力の入れ方・動作の仕方に直接関係する力学的検討が不十分である。本研究では、多リンク・セグメントからなるモデル用いて飛び込み動作における各関節トルクとその結果発現する動作の関係を明らかにし、危険な動作を発現させないための条件、よい飛び込み動作を行うための条件を探り、これに沿った指導手順を検討し、学校水泳における「飛び込み」教材の存続を図るものである。 多関節リンクモデルのコンピュータシミュレーションには、高速な演算処理能力を持つ計算機が必要である。本研究では本学情報処理センターの機構解析プログラム「DADS」を用いて身体を多関節リンクモデルで表現し、このモデルに良い飛び込み、危険な飛び込みを含めた様々な目標動作を与え、逆動力学解析によりその際の関節トルクを求め、飛び込み動作中における各主動筋の力の発揮状況を推定した。先行研究では、安全なホールエントリ-を実現するためには、離台後の股関節の伸展が重要であるとされているが、本研究においてもこれを裏付ける結果を得た。すなわち、プール底衝突を招くようなオーバーロ-テーションを起こす試技では、股関節の伸展トルクは正常なスタート動作のそれより小さな値となった。 多関節リンクモデルの妥当性を含め、本研究で用いた手法の適否を限られた期間内に判定するまで至らなかった。発揮する各関節トルクのシークエンスにどの程度の変更を加えると動作がどう変化するかを順動力学解析することにより、動作を改良する方法、指導法については継続して検討する予定である。
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