運動の継続に伴い筋が疲労する要因を興奮収縮連関に直接関与する筋細胞内膜系の分化の特徴から明らかにすることを目的として、タイプの異なる筋線維組成を有するラット下肢骨格筋(長指伸筋:速筋、ヒラメ筋:遅筋)を対象として実験を行った。両骨格筋を電気刺激(1Hz)により繰り返し収縮させ(単収縮)、発揮張力が最大発揮張力の75%、50%、25%、0%となった時点で分析に用いた。骨格筋の超微細構造並びに筋細胞内膜系を観察するために、筋をグルタールアルデヒドにより固定したエポン樹脂に包埋し、厚さ50nm及び0.35μmの切片を作成し加速電圧80kV、100kVにより電子顕微鏡を用いて観察した。収縮の継続に伴い発揮張力が低下する割合は速筋線維において顕著であり、いずれの%に至る時間も速筋が遅筋に比較して有意に早い値を示した。また従来より報告されているように、筋細胞内膜系(筋小胞体:SR、横行小管:T管)の発達の程度は速筋線維において顕著であり、ミトコンドリアの容量及び数は遅筋線維において顕著であった。筋疲労の程度が顕著になるに伴い(発揮張力の低下が進行するに伴い)、T管の配列に乱れが生じた。しかし、SRに関しては特に顕著な構造上の変化は観察されなかった。T管の構造上の乱れは特に速筋線維において顕著であり、筋疲労の要因が興奮収縮連関に関与する筋細胞内膜系にもある可能性が示唆され、遅筋線維に比較して速筋線維の疲労耐性の低さが筋細胞内膜系の構造上の特性からも説明できるものと思われる。しかし、筋疲労に伴う速筋線維と遅筋線維における筋細胞内膜系の機能的特性の変化に関しては不明であり、T管並びにSRに局在するカルシウムチャンネルの機能的特性の変化と併せて今後の検討課題であると思われる。
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