研究概要 |
長期の身体トレーニングでみられるインスリン作用の上昇は,急性運動負荷の残存的効果にすぎない可能性が指摘されている。しかし,インスリン作用に影響を及ぼす他の筋組織や酵素の研究結果を勘案すると,トレーニング効果の発現が,一回の運動と同様の機序であるとは考えにくい。本研究は,グルコース輸送タンパク(GLUT-4)のmRNAを指標として,急性運動負荷と長期のトレーニングにおけるグルコース取り込みメカニズムの差異について検討した。対象にラットを用い,まず,急性運動負荷ならびに6週間のトレッドミル・トレーニングの1日および7日後に,2段階のhyperinsulinemic euglycemic clamp法により,in vivoのインスリン感受性と反応性を測定した。その結果,インスリン感受性は,急性運動群およびトレーニング群とも1日後では上昇を示したが,7日後にはコントロールの水準に復した。一方,インスリン反応性は,トレーニングをおこなった群のみが上昇し,この水準は7日後でも維持されていた。ヒラメ筋中のGLUT-4 mRNAを,Northern blot analysisによって測定した。急性運動の1日後で両条件とも低下し,7日後には回復傾向を示し,感受性が高まっている期間はmRNAの量がむしろ低下しているという結果が得られた。また変動は,トレーニング群の方が低下の程度が大きく,感受性の変動と逆に関係になっているように見受けられた。しかし,急性運動やトレーニング後のmRNAの変動についての研究は,先行研究がきわめて少ないうえに結果が一定していないこともあり,明確な結論を得るためにはさらに例数を増やして検討を加える必要があるものと考えられた。
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