本研究は、注意や識別、判断といった認知過程に全身持久性運動がいかなる影響を与えるか検討することを目的とした。更に、競技スポーツ経験群と未経験群に対するその影響ほの比較を加え検討する。認知過程の生理的指標として事象関連電位300(以後P3)を用い、従来のP3加算平均法(Squiers1964)による測定と、加算しないP3の単一試行ごとの測定により解析した。その作業課題は、目標刺激(20%)と非標的刺激(80%)からなり、目標刺激に対しkey-press反応を行うもので、安静時と自転車運動時、回復期にわたり断続的に遂行された。被験者は健常な18〜20才の女性17名(競技スポーツ経験者5名、未経験者6名を含む)で、脳波は両耳朶連結を不関電極としてCzより導出した。データは磁気テープに記録され、解析はoff-lineで、目標刺激に対する反応時間(RT)、P3成分の潜時と振幅を測定した。その結果、RTは運動負荷と伴に増加し、回復期では運動負荷前の値に戻るのに対し、P3振幅および潜時は運動負荷の増加に伴い低下するが、回復期では運動負荷前の値にもどらなかった。これは、P3の変化が代謝性の影響を受けている可能性を示唆している。競技スポーツ未経験群が、運動時にRT遅延およびP3潜時増加を示すのに対し、経験群は、RT短縮およびP3潜時短縮傾向を示した。また、RTとP3振幅、RTとP3潜時の相関が運動群にはみられるが、未経験群にはみられない。更に経験群では運動時に相関係数および一次回帰直線の傾きがより増加し、S.D.はより小さくなった。このことは、反応行動と認知機能のtrainabilityを示唆すると考える。
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