本研究の目的は、イギリスの近代刑法を構成する制定法、判例法、権威書を分析し、イギリスにおける「不法な遊戯」と「合法的スポーツ」の概念を明らかにすることにあった。主な資料としては、サ-・ウィリアム・O・ラッセルの『犯罪及び軽罪論』第7版(1909年)を用いたが、この権威書の記述により得られた知見は以下のとおりである。 同書の第6編「治安破壊について」の第1章及び第2章、そして第9編「殺人について」の第1章に、スポーツとゲームに関する言及が見られた。 それらを分析した結果、スポーツとゲームに関する刑法上の争点は、当該スポーツの目的に加え、それにまつわる治安の維持と身体的障害の防止にあったことが明らかとなった。つまり、イギリス刑法では、これらの要件を外すと、当該スポーツは「不法な遊戯」と見なされたのであり、逆に「合法的スポーツ」は、これらは要件を満たすことによって、その存在を容認されたのである。また、そのことを端的に示す例として、「理由ある殺人」の裁定を挙げることができた。これは当該スポーツが「合法」である場合にしか適用されないため、スポーツ行為の最中に死亡事件が発生した場合には、当該スポーツの違法性・合法性がきわめて現実的な問題とならざるを得なかったことを示している。
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