研究概要 |
産地は経済の高度成長期以降,都市化・工業化による農家の兼業化・脱農化や農業環境の悪化のほか,他産地との産地間競争を強いられてきた。近年は輸入自由化などによる国際化に伴う海外産地と競争にもさらされている。そのなかで,一部の産地は持続的に産地を維持・発展させてきた。本研究はそのような持続的発展を示してきた産地の構造を明らかにし,その発展過程を分析することでその条件を解明しようとした。そのため,本研究では都市化地帯において,持続的に産地を発展させてきた例として,愛知県蒲郡市のハウスミカン産地を取り上げ,その発展過程と条件の解明を試みた。蒲郡市は第二次世界大戦後の温州ミカンブーム以降の価格暴落やオレンジの輸入自由化などの外的条件の変化にもかかわらず,全国一のハウスミカン産地を形成して発展してきた。それは地域リーダーが温州ミカンの構造的不況への対応策の一つとして導入し,栽培技術と販路を開発して経営的に成功したのを見て,農協が他の農家に導入を勧めた結果であった。また,産地間競争の激化とともに,本産地では県の農業試験場による新技術を取り入れ,他産地との差別化をはかった。本産地の発展は上からの主導によるものではなく,地域リーダーとそれに追随する農家群,および農協という下からの産地形成であり,産地の維持・発展であった。その過程で,農家は農業経営を変化させ,工業的産業を形成してきたのである。以上から,本研究ではこのような産地形成と産地間競争のなかでの対応は産地の自立的なものであり,地域リーダーとそれに追随する農業群,および農協と農業試験場を構成要素とする一つのシステムが産地の維持・発展を目的に行動した結果として持続的に発展してきたことを明らかにした。また,それは本産地が名古屋市場に近接し,それを基盤として可能になった。しかし,以上の結果は対象産地の分析から得られた知見であり,他産地との比較分析からより一般的な新たな知見とそれぞれの地域的条件を解明できると思われる。そのため,今後は蒲郡市との比較を目的に,ハウスミカン栽培の主産県である佐賀県・愛媛県を対象に比較研究を行う計画である。
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