本研究は、職業別電話帳に掲載された広告の中の地図を用いて、都市のイメージ分析を試みたものである。対象地域には札幌・東京・金沢・広島の4都市を選定し、各都市の職業別電話帳から地図を掲載した広告を10%系統抽出してデータを作成した。分析は、(1)電話帳広告地図の表現様式、(2)都市のイメージの変化、(3)都市イメージの地域差、という3つの側面から行った。これらの分析から、以下のような知見が得られた。 (1)については、金沢を事例として、広告の地図を構成する記号の範列的関係と統辞的関係の両面から分析した。まず範列的関係は、図上で弁別可能な記号を抽出し、その形態と機能という点から分析した。その結果、ほとんどの記号が点と線からなっており、点記号の中でも目的地には、他の記号群とは異なる弁別特徴がみられた。また、線記号の大半を占める道路は、重要度に応じた階層的関係を幅の大小によって表していた。なお、広告地図1枚当たりの要素数は平均8.8個で、短期記憶の容量(7±2チャンク)に相当することが判明した。 一方、統辞的関係については、個々の地図の基本的構成が、目的地・経路・ランドマークの組み合わせから成っていることが明らかになった。これらが構成する画面には、基準線となる線記号が図郭とほぼ平行に据えられるという共通点がみられた。また、屈曲した道路が直線化されたり、目的地から離れた位置関係ほど縮小されるといった単純化傾向も検出された。 (2)については、金沢の1993年と1975年の2時点での分析結果の比較を行った。その結果、地図の構成要素として、この期間に外食の系列店やスーパーなどの大型店が増加していることが判明した。また、共通に出現する要素を集計して、Lynch(1960)と同様のイメージ・マップを作成したところ、都心再開発や郊外化に伴う都市イメージの変化が認められた。 (3)については、対象となった4都市の広告地図の特徴を比較した。その結果、札幌では格子状街路と条・丁目による通りの呼称が、東京では鉄道駅が、金沢では川と橋が、広島では市電と川が、各都市で位置を指示する特徴的な要素となることが明らかになった。
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