研究概要 |
本研究は中国大陸上の梅雨前線帯攪乱の形成に関わるチベット高原周辺の大気場の時間変化を捉えることを目的とし、1992年6月13〜22日を対象として事例解析を行った.この期間には上層のトラフが高原北側を南下・東進し,それに伴って以下に示す時間変化が認められた.(1)大気下層において上層のトラフに伴う低温域が高原北西方を南下し,低温域南側の温度傾度集中帯が高原北側へ接近する.この温度傾度集中帯のすぐ北側には東西に延びる高圧帯が認められる.(2)高圧帯の東端が高原北側に到達し,そこの気温が急激に低下する.(3)高原北東側の低圧部が深まり,低圧部の東西で高度場の傾度が増大する.下層における主要な低温域の中心は高原北側にあるが,高原北東側にも低温域が現れる.(4)低温の中心が高原北側と北東側に明瞭に認められるようになり,それぞれが東進する.西側の低温域は上層のトラフに伴うもので対流圏全層に及ぶが,東側の低温域は700hPa面以下に限られる.(5)上層のトラフがチベット高原を通過すると西側の低温域は消失し,東側の低温域のみが東進する.上記の間にチベット高原北〜東縁に沿って下層に強い西〜北風が現れ,高原東側に正渦度帯が形成される.風の場の時間変化をみると,(2)〜(3)に対応する高原北側の高圧部には高原方向から吹き出す南風が現れ,それは西〜北西風に転向し高原北東端の低圧部に吹き込んでいる。(4)では高原北側に貼り付いて高圧部が現れ,一方,高原東縁に沿って高原南東端まで低圧部が南下し,これに向かって高原北側の高圧部から非地衡風的な強い北西風が現れる.高原東側に現れる正渦度帯は高原近傍における非地衡風的な風とその東側の地衡風的な南風との境界に形成されている.(5)では低温域の南側に低圧部が認められ,そこが正渦度帯に相当する.正渦度帯は時間的に追跡されるが,形成以降,攪乱としての構造が変化していると考えられる.
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