本研究では、男女共学の中等家庭科カリキュラムの編成視点と学習方法を考察するために、1980・90年代の日本と米国の家庭科事例を検討した。米国の家庭科カリキュラムは、1960年代に概念アプローチにより重要な概念を抽出し、構造化が試みられたが、一方で子どもの学習経験を重視するものでもあった。この傾向は強化されてきた。連邦レベルでの取り組みに先立ち概念アプローチを試みたニューヨーク州では、70年代にモジュール構成をとり、教師は子どもや地域の実態と領域共通の重要点から独自の学習活動を考え、子どもに働きかけることを要求された。80年代にはさらに、教師は学習のまとまりを内容領域を越えて独自に考えることが要求された。それは、職業教育の基礎として必修化された前期中等レベルの新教科"Home and Career Skills"に顕緒である。 というのは、家庭科がキャリアと生活のスキルの学習により青少年の自立を支える教科として位置づけられたためである。目的は、知識の習得ではなく、思考スキルの習得に留まらず、行為することとされ、カリキュラムはプロセス・スキルを中核に構成され、目的は「達成目的」として行為の形で簡潔に示され、教授方略案が大量に示された。それらは、知識・技術の伝達でなく、子どもが次の活動により生活や職業に関する知識やスキルを自分のものとして獲得し、学校や社会に働きかけることを可能にしようとするものであった。活動は、(1)既存の指針や知識に対して、調査や討論により検討や再評価を行う、(2)生活実態について地域・社会の大人に調査し、分析し、方針づくりを行う、(3)得た調査結果や知識・スキルにより表現・表明し、学校や地域に働きかける、などである。これらは、いずれも知識やルールを所与のものとして受け入れる学習ではない。子どもの権利条約を契機に指摘されているように、授業を子どもの社会参加や文化的実践の場としてみていく上で重要な視点である。
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