今年度は、英語と日本語の読解力を比較する時の条件として、それぞれの言語でのテクストの難易度設定に対する指標を得るために、読解方略を調べるとい質的アプローチを行った。対象は大学生7人で、テクストはすべて物語文であった。まず、クローズテストと翻訳という方法で、被験者にとって適度な難易度の日本文と英文、及び難しい英文を用意した。それらの文章を使って、シンクアラウドとリコールを行った。シンクアラウドプロトコルより20種類の方略が取り出され、各テクスト間でその使用率が比較された。易しい英文の方略は難しい英文より、日本文で使われた方略に近く、読解方略の普遍説を支持していた。難しい英文では、語彙につまずく場合が多く、それらの意味の推測もあまり積極的にはなされなかった。ただし、難しい英文での方略が必ずしもボトムアップ中心になるというわけではなく、推測という高次の方略が多く観察された。ただしこの場合の推測は、弱い英語の言語能力を補って、少しでもわかるところから大意をなんとか理解するために行われることが多いのに対し、易しい文章では、テクストの理解の上にたって想像力を大いに働かせ、読者自身の意味の表象を作るために行われることが多い点が質的に異なっていた。ただし、易しいとはいっても、英文では単語の意味の処理などで回り道をしており、低次の処理の自動化が完全でないため、日本語での読解に比べ必要以上にエネルギーを費やす様子があった。日本語、英語に関わらず、読解過程で読者はかなりの量の質問を発している。その機能は予測、推測、イメージの拡大など様々である。読解は、読者が自分の質問に対する答えをテクストの中に見つけていく過程であるという指摘を裏付けていた。また方略の個人差はリコール得点には反映されず、様々な方略から同じような理解に到達する様子がうかがえた。
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