近年の情報システムや社会システムの多くは、エージェント集合が大規模なデータベースを共有し、これに対し自立的に動作する形式でモデル化できる。このような、いわゆる多エージェント型システムでは、一般にその共有データベース、およびエージェントの行動記録は全て履歴データとして記録され、データベース倉庫に格納されている。本研究の目的は、これら履歴データから構成した大規模なデータベースを用いて多エージェントの行動をシミュレーションすることである。 平成6年度の目的は、共有データベース(以下、D0と略記)上の分散制約充足問題(以下、DB-DCSPと略記)を扱う処理系を単一プロセッサ向けに作成することであった。特に、エージェントはD0に対して繰り返し大量データ操作を発行するために、これの高速化算法の開発が主眼であった。今年度の研究実績は以下の通り: 1:10万件規模のデータベース上のDB-DCSPを扱う処理系を単一プロセッサ・ワークステーションに実装した。具体的には、エージェントの行動モデルをある程度限定し、その上で平成5年度に提案した「外結合演算結果と差分ファイル共有方式(OJT)」を用いて処理系を実装した。評価の結果、OJTは従来のTREAT算法などに比べ1回の繰り返し演算あたり3倍程度まで高速化できることを確認した。 2:また、中間演算結果のうちエージェントの交渉規約における注視点に対応する部分をキャッシュする技法(Scope Cache)を提案した。これによって従来より10倍程度まで繰り返し処理を高速化できることを示した。 より一般的なエージェントモデルと大規模なデータベース処理への拡張が平成7年度以後の課題である。
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