エッチング過程に基本的役割を果たすイオン挙動の解明を目指し、レーザー誘起蛍光法(LIF計測法)及びシミュレーションを用いて、電子サイクロトロン(ECR)放電プラズマ内基板付近での、イオン速度分布関数に及ぼす外部パラメーター(ガス圧力、磁場配位、チャンバー形状)の影響を調べ、それらによるイオン流制御の可能性を追求した。 2.45GHzのマイクロ波発生源を取付けたチャンバー周辺に、ECR条件を満たす磁場を発生できるヘルムホルツ型コイルを配置。レーザー源には、XeClエキシマレーザ励起色素レーザを用い、スペクトル幅は1.5pmまで狭帯域化した。このレーザ光の波長をArレーザー^+準安定準位の吸収線611.493nm前後で掃引し、460.96nmの蛍光を光電子増倍管で検出することで、Ar^+吸収線ドップラープロファイルを観測した。旧チャンバーでは、一様磁場配位での計測しかできなかったのに対し、本年度新たに設計した新チャンバーでは、4つのコイルを配置し、さまざまな磁場配位(ミラー、発散、一様など)の観測が行なえるようにした。また、圧力依存性、チャンバー形状依存性についても観測を行った。 シミュレーションは、R.K.Porteous氏(Australian National Univ)によるものを用い、プラズマ中の密度、温度、ポテンシャルなどを、自己無撞着に計算した。 旧型チャンバーでは約5km/s付近に一つのピークを持つ分布となっていたが、磁場配位が一様磁場に限られるため、磁場依存性を計測することはできなかった。そこで、シミュレーションによる磁場依存性の検討を行なった結果、ミラー磁場の場合に、高いエネルギー(高速)を持つイオンが発生した。従って、新チャンバーで、この依存性を調べた結果、ミラー、発散磁場の場合には、高速部(10km/s付近)と低速部(2km/s付近)の2つにピークを持つ分布(bi-modal)を形成した。また、一様磁場の場合には、高速部は発生せず、低速部にのみピークを持つ分布となった。そこで、これらを検討した結果、ミラー、発散磁場の場合には、ソース部と下流部との間に大きなポテンシャル勾配が生じていると考えられ、基板部でのイオン速度分布関数が、この勾配により加速され高速になったイオンと、荷電交換衝突などにより下流部で発生した低速イオンとによって構成されるため、"bi-modal"を形成すると考えられる。一様磁場の場合には、このような大きな勾配が生じないため、低速部にのみピークを持つ分布になると考えられる。また、"bi-modal"形成への圧力、チャンバー形状依存性についても検討を行なった。 イオンの輸送過程について調べた結果、基板付近でのイオン速度分布関数が、磁場配位、圧力、チャンバー形状に強く依存しているため、これらによってイオン速度を制御できると考えられる。また、シミュレーションと対比させることによって、イオン速度分布関数の形成機構について詳しい検討を行うことができた。
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