従来半経験的に理解されてきた透明導電膜物性とプロセス条件と関係を定量的に明らかにするために、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜の反応性スパッタリング過程における放電プラズマ中の粒子計測をレーザー分光を用いて実施した。本研究で得られた実績の概要を以下に列挙する。 1.DC反応性スパッタリング中でITOターゲットからスパッタされた中性In原子を、レーザー誘起蛍光法により高空間分解能かつ高感度に検出し、その蛍光信号をArガス中のレーリー散乱を用いて較正することにより、In原子密度の絶対値を50%以内の精度で決定することに成功した。 2.気体圧力・気体組成比・放電電力等の種々の外部入力パラメータを変化させて、上記の粒子計測を行った結果、大略次のような実験結果を得た。すなわち、(a)In原子密度の空間分布は、陰極から放出された高速のスパッタIn原子が雰囲気ガスとの衝突緩和することにより決まるピーク分布を示す。(b)In原子密度は放電電力にほぼ比例する。(c)動作ガスのArに酸素を混合していくと、放電電流は1/2〜1/3に減少するのに対し、スパッタIn原子密度は数十分の1に減少し、基板に入射するIn原子の粒子束も大きく減少する。(d)その際、空間分布におけるピーク位置が陰極から遠ざかる。 3.以上の結果を元に、反応性スパッタリング過程における表面反応と空間反応を考察し、基板入射In原子束等の諸量が急激に減少する酸素分圧が、従来から成膜の最適条件とされている領域であること、反応性スパッタリングは主に陰極ターゲット表面の表面酸化状態に大きく左右されることがわかった。 4.さらに、また、レーザー光脱離を利用して、酸素負イオンの検出を行ない、酸素混合にともない酸素負イオンの生成が反応性スパッタリングにおいても重要になる可能性を示した。膜の物性とプラズマ内部の物理的諸量(粒子密度や粒子束)との比較対応が今後の課題である。
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