液体もしくは固体有機物(特に飽和炭化水素やポリオフィン)について、ピコ秒パルスラジオリシスを行い、親ラジカルカチオン及び電子のピコ秒時間領域での挙動 特に、イオン化後の電子の熱平衡化時の分布及び電子の媒質中での運動、親カチオンの反応性、拡散理論による理論的な解析について研究を行った。 ピコ秒パルスラジオリシスの実験は、大阪大学産業科学研究所及び東京大学工学部附属原子力工学研究施設のピコ秒ライナック設備を使用した。ポリオレフィンサンプルは、構造中に適切な分岐構造を導入することにより、分析光が透過可能な透明度の高い固体サンプルを得ることができ、はじめて、この種の固体サンプルのパルスラジオリシスが可能となった。 ピコ秒パルスラジオリシスを行うことにより、飽和炭化水素溶液中及び固体液体中で、電子及び親ラジカルカチオンの時間的挙動の測定を行った。電子と親ラジカルカチオンの再結合過程は、スモルコフスキー方程式と呼ばれる、クーロン場中の拡散方程式で記述される。研究では、更に、親ラジカルカチオンの反応性、例えば、イオン分子反応等を考慮した解析手法に拡張して、実験結果の解析を行った。その結果、イオン化後の熱平衡化時の親カチオンラジカルと電子間の距離の分布が求まり、固体と液体では差が無いことが明らかとなった。但し、電子の移動度に関しては固体では、百分の一以下に低下する。また、親ラジカルカチオンの大部分は、再結合反応で消失し、イオン分子反応等の過程は極一部であることが見出された。
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