研究概要 |
●概要:溶存有機炭素→細菌→高次栄養段階生物の炭素フローを解明するために,夏期に瀬戸内海において,(1)細菌による溶存有機炭素の同化速度と(2)細菌同化炭素の動物プランクトンへの分配率を計測した。(1)について:炭素安定同位体を用いている新たな評価法を検討し,実現可能性・課題を示した。(2)について,光合成炭素(別途計測)の分配率との比較を行い,動物プランクトンの食物源として細菌同化炭素の重要性をしめした。●方法:4.5lのボトルに現場生体形を^<13>C-グループコースを封入後,生態系捕獲地点に吊下して培養を行った。4-5時間経過後,粒径の違いにより,細菌,微少動物プランクトン,動物プランクトンを分画し,各分画の^<13>C存在量を計測した。細菌画分の^<13>C存在量(即ち^<13>C-グルコース取り込み量)からグルコース以外の成分も含む溶存有機炭素の同化速度を求めるため,細菌捕食者を含まない系を作成し,^<13>C存在量と細菌体炭素量(即ち純細菌同化速度)の時間変化を計測・比較した。上記の作業と栄養塩・生態系構成種の計測を毎日あるいは1日おきにほぼ2週間に亘り行った。●結果:(1)について,^<13>C存在量の時間変化と細菌炭素量の時間変化は常に強い相関を示し,^<13>C-グルコースの取り込み速度から細菌による炭素同化速度を定量できる可能性を示した。この方法を用いた試算では,細菌同化の速度は光合成速度の20-40%であり,従来法(細菌のDNAへの放射性同位体取り込み速度による)を用いた他海域での報告と近い値であった。本手法が他海域(生態系)においても適用可能であるか否かについて,更に検討を続ける予定である。(2)について,動物プランクトンへの配分率(動物プランクトン画分^<13>C量/細菌による^<13>C-グルコース取り込み量)は常に1%を越え,カイアシ類の優占期にはその数倍以上の値を示した。この値及び傾向は別途計測した光合成炭素のものと等しく,動物プランクトンは細菌同化を起点とする炭素と光合成炭素をほぼ等しい割合で捕食していることが明らかになった.
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