研究概要 |
本研究ではディーゼル排気粒子暴露の生体影響評価の為、ディーゼル排気粒子の惹起する急性炎症病態の中で主に肺への好中球浸潤と細胞I型上皮細胞障害に着目してin vivo実験を行い,その肺組織標本について病理学的および免疫組織学的検索を行った。マウスへのディーゼル排気粒子の気管内投与実験では、投与2時間以降ほぼ濃度依存的に顕著な好中球の浸潤と肺胞I型上皮志望の壊死・剥離とが認められたが、II型肺胞上皮細胞に障害は見られなかった。壊死の起こらない濃度(0.2mg/匹以下)においても好中球の浸潤は観察され,6から8時間後に浸潤のピークが認められた。同実験系における細胞接着分子の発現を見ると、ディーゼル排気粒子投与後、好中球浸潤やI型肺胞上皮障害に先行して通常はI型肺胞上皮細胞上にしか発現していない接着分子ICAM-1がI型、II型肺胞上皮細胞に強度に発現するのが認められた。血管内皮細胞においてもICAM-1,VCAM-1の発現が同様に認められ、時間とともに発現は減衰した。浸潤してきた好中球表面の接着分子については、ICAM-1に対応するLFA-1とMac-1のうち特にMac-1の発現が強く認められたが、毛細血管内好中球と肺胞腔内に遊走した好中球の間に量的差違は認められなかった。活性酸素のスカベンジャーであるスーパーオキサイドデスムターゼ(SOD)前投与により肺胞I型細胞障害が抑制されるが、各々接着分子の発現パターンはディーゼル排気粒子単独投与と同じであった。 喘息患者で分泌型のICAM-1が増加することなどを考慮すると、ディーゼル排気粒子による好中球浸潤に関与するICAM-1の発現増強は影響評価マーカーとして有用であろう。
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