1.ヘイケイヌワラビ産地の現状調査 兵庫の集団では植生を含む現状調査を行った。林相は常緑カシ類、ブナなどが混在するアスナロ林であり、植生学的には、照葉樹林とブナ林の境界にあたる。15m平方のコドラート(下辺が谷から13m)を設定した。ヘイケイヌワラビ(ヘイケ)23株・タニイヌワラビ(タニ)41株・アキイヌワラビ(ヘイケとタニの雑種、アキ)35株を多く含むコドラート外を含めると、ヘイケは計49株を確認できた。ヘイケイヌワラビの葉身長は最大で32cmで、10cm未満の株も1割程度含まれる。7月上旬では葉を展開しきっておらず、しっかりとした成葉となるのは7月下旬であった。現地での胞子嚢の成熟は悪く、今年度は現地個体から十分量の胞子を得られなかった。猛暑による現地の乾燥のためかもしれない。 さらに全国のヘイケの産地(鳥取・広島・島根・山口)7ヶ所について、現地調査・聞き取り調査を行った。鳥取・広島の各1集団は現存が確認できない。鳥取・広島の各1集団は10株未満で、極めて危険な状態にある。島根の2集団はともに100株以上の個体があり、比較的良好な状態にある。山口の集団は40株程度である。 2.酵素多型による調査 兵庫20個体、島根10個体について、電気泳動法により、AAT/HK/PGI/PGMで解析可能なザイモグラムが得られたが、まったく単型であった。 3.胞子からの増殖 兵庫県産の栽培株から11月に得られた胞子を、1/2000ハイポネックスを含む寒天培地播種した。2024時間照明の状態で1週間程度で発芽して、2ヶ月で幅10mm程度の前葉体が形成された。現段階では造精器のみ観察されている。少なくとも前葉体は容易に成長する。今後の継続観察を要する。
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