Ca^<2+>/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CAMKII)を30℃でCa^<2+>/カルモデュリン(Ca^<2+>/CaM)とともにインキュベートすると酵素活性の速やかな不活性化が観察された。この不活性化の前後でCAMKIIの分解はSDS-PAGE上観察されず、またプロテアーゼ阻害剤の添加によって不活性化は全く抑制されなかった。これに対し、EGTAやCaMアンタゴニストであるトリフルオペラジン、W-7によって不活性化は完全に抑制された。これらのことから、この不活性化は確かにCa^<2+>/CaMに依存した過程であることが示された。不活性化反応速度はCa^<2+>/CaM濃度に依存し、最大不活生化速度の1/2を与えるCa^<2+>/CaM濃度は127μMと活性化に要するCa^<2+>/CaM濃度に比べると、はるかに高濃度を要した。また、キモトリプシン処理によってCa^<2+>/CaM結合部位を含む自己阻害ドメインを取り除いたCAMKIIフラグメントを用いても同様のCa^<2+>/CaMに依存した不活性化が観察された。以上のことから、この不活性化には従来考えられていたCa^<2+>/CaM結合部位とは異なる低親和性の第2のCa^<2+>/CaM結合部位が関与していることが示唆された。 この結果不活性化は温度依存性であり、20μMのCa^<2+>/CaM存在下では20℃以上の温度における熱安定性が急激に低下した。500μM ADPおよび10mM MgCl_2はそれぞれ単独では不活性化に殆ど影響を及ぼさなかったが、同時添加によって不活性化を顕著に抑制した。本酵素の良好な合成ペプチド基質であるsyntide-2は304μMという高濃度で添加しても不活性化に全く影響を及ぼさず、また良好な蛋白質であるMAP2はむしろ不活性化を促進した。これらに対し、本酵素の自己阻害ドメインを模した合成ペプチド基質であるautocamtide-2は5μMという低濃度で不活性化を著明に抑制した。 本研究の結果、CAMKIIの活性発現に必須であるCa^<2+>/CaMは、高濃度に存在すると逆に速やかな酵素の不活性化を引き起こすということが明らかとなった。このことは本酵素の活性が高親和性と低親和性の2つのCa^<2+>/CaM結合部位によって制御されている可能性を示唆しており、。その機構や生理的意義について興味が持たれる。
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