アンチトロンビンIII(ATIII)はトロンビンと1:1の複合体を形成して活性を阻害する血液凝固系の制御調節因子であり、トロンビン・ATIII複合体(TAT)は炎症や血管内皮細胞障害に伴う凝固亢進状態で著名に増加する。我々は血管内皮細胞障害部位で多量のTATと単球が近接して存在すると示唆されることから、TATと単球との相互作用について研究してきた。その結果、TATは単球系樹立細胞U937に特異的かつ飽和的に結合し、さらに細胞内に取り込まれ、リソゾームで分解されることを明らかにした。また、この結合は非標識TATで強く阻害されたが、ATIIIおよびトロンビンでは阻害されなかったことから、TATの細胞への結合にはATIIIまたはトロンビンの複合体形成による構造変化が重要であることが示唆された。Perlmutterらは肝癌細胞HepG2上にSEC(Serpin-Enzyme Complex)レセプターを同定したが、U937細胞のTATレセプターとは異なる物質であることを合成ペプチドを用いて明らかにした。さらに、ある種のSECに対するレセプターとしてα2マクログロブリン・プロテアーゼレセプターすなわちLRP(LDL receptor-related protein)が同定されたが、ヒト胎盤から精製したLRPにこTATが濃度依存的かつ飽和的に結合することを観察した。本結果については国際血栓止血学会のサブコミッティーにおいて発表したところCarrelら(英国)も同様の結果を示した。現在、U937細胞上のTATレセプターについてLRPとの異同を含めて構造および機能の両面を詳細に検討中である。
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