研究概要 |
当初計画したように、「HL-60細胞におけるレチノイン酸によって特異的に発現誘導されるNADase活性の実体は表面抗原CD38である」という興味ある知見(J.Biol.Chem.,268,16895-16898,1993)に基き研究は遂行され、以下の成果を得ることができた。 1.ヒトCD38分子のアミノ酸配列中には細胞外マトリックス分子の一種であるヒアルロン酸との結合部分が3ケ所存在することを見い出し、in vitroの結合実験によりその結合能を明らかにした。これらの結果より、「血球系細胞におけるCD38分子の生理的役割の一つは細胞接着に関与することである」という細胞レベルの最近の知見をより具体的に検証することが可能となった(Biochem.Biophys.Res.Commun.,203,1318-1323,1994)。 2.CD38分子と構造の類似性が指摘されているアメフラシの環状ADP-リボース合成酵素(ADP-ribosyl cyclase)との生化学的特性を比較検討した。その結果、CD38分子の有する酵素活性の大部分はNADase活性でありADP-ribosyl cyclase活性はその1/100以下であること等、CD38分子とアメフラシの酵素との異なる特性を明らかにすることができた(J.Biochem.,117,125-131,1995)。 これらの結果より、「CD38分子は酵素、受容体、接着能を有する多機能分子である」ことが明らかとなった。現在、CD38分子が動物細胞内で環状ADP-リボース合成酵素として機能する可能性の検討と、動物細胞内にもアメフラシ型のADP-ribosyl cyclaseの存在を示唆する結果が得られているのでこの未知分子の検索へと研究は展開されている。
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