今回私は、ゼノパス卵母細胞より同定されたチロシンキナーゼXYKの生理機能の解明を目的とした研究を行ってきた。以下にその進行状況について記述する。 1)プロゲステロンを用いた人為的卵成熟誘導に伴う活性型、非活性型XYKの変動 卵母細胞膜分画中に存在するXYKは、陰イオン交換樹脂であるDEAE-celluloseを用いたカラムクロマトグラフィーにより同定される。またその活性化度はキナーゼ活性化抗体である抗pepY抗体を用いたキナーゼ活性測定により推定することが可能である。この方法により、卵母細胞中のXYKは、9割以上が不活性状態にあると推定される。今回、単離した卵母細胞へのプロゲステロン投与、及び、母体へのゴナトリピン投与、の2種類の方法により成熟卵(未受精卵)を調製し、XYKのタンパク質量、及び活性を解析したところ、そのいずれも卵母細胞XYKと殆ど変わらないことが明かとなった。一方、未受精卵への精子投与により得られた受精卵中のXYKは、量の変化が見られない一方で、活性の数倍の上昇が観察された。この結果から、受精時にXYKの比活性の上昇、即ち活性化が起こることが示唆された(平成6年日本分子生物学会で発表)。 2)卵母細胞中のXYK活性化因子、及び不活性化因子の検索 卵母細胞XYKについては今のところ、卵成熟過程での活性変化が見られないため、更なる解析は進めていない。一方、1)に記述したように、受精時のXYK活性化が示唆されているので今後は未受精卵の精子受容から、XYK活性化までのシグナル伝達機構を明らかにしていきたいと考えている。 3)XYKのcDNAクローニング XYKを認識する抗ペプチド抗体、抗pepY抗体を用いてゼノパス卵母細胞cDNAライブラリーの抗体スクリーニングを行っているが、今のところ陽性のクローンを得るには至っていない。今後、別種プロープ(例えば精製されたXYKの部分アミノ酸配列を元に作成したオリゴヌクレオチド)の利用や、cDNAライブラリーの再構築も含めたシステムの見直しが必要であると思われる。
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