研究概要 |
BC-1 RNAは、げっ歯類の反復配列であるID遺伝子からpol IIIによって転写される低分子量のRNAである。このRNAは、脳の発達にともなって増加し、特定のタンパクと複合体(BC-1 RNP)を形成して神経細胞の樹状突起に運ばれるので、シナプスで機能していると考えられている。本研究は、主にBC-1 RNAの転写調節機構について調べることを目的としている。本年度は、解析に適したシステムを選ぶため、複雑なネットワークを形成している中枢神経系のほかに、単一種のシナプスを介して神経支配を受けている骨格筋に着目し、BC-1 RNAの発現の有無を調べた。その結果、以下のことが明らかとなった。 (1)BC-1 RNAは、神経細胞に特異的とされてきたが、骨格筋でも発現しており、その存在量は脳の1/100程度であった。 (2)BC-1 RNAは、神経筋接合部(シナプス)が形成される胎生期(E17,E18)の筋肉に多く、生後、減少した。 (3)アダルトの骨格筋では、除神経により存在量が増加した。その時間経過は、アセチルコリンレセプターα-サブユニットmRNAの発現量の増加と一致していた。以上のことは、BC-1 RNAの転写が神経によって調節を受けており、また、このRNAがシナプスの形成、維持、さらに再生の過程で機能していることを示唆している。したがって、骨格筋を用いて、これらの過程におけるBC-1 RNAの転写調節のメカニズムを解析することは、中枢神経系でのこのRNAの転写のメカニズムを理解することにも役立つと考えられる。また、本年度は、BC-1 RNAの遺伝子の単離にも成功しており、現在は、in vitroの転写系を用いて遺伝子上の調節領域の解析に着手している。
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