Subtilisin BPN'の高次構造形成にはプロ配列が必須とされていたが、最近、我々は2Mという高濃度の酢酸塩が非常に有効にプロ配列を持たないsubtilisinのrefoldingを誘導することを見いだし、酢酸塩と正負の電荷が偏って集まる部分を持つプロ配列それぞれの作用機序に何らかの共通点があるのではないかと考えた。 本研究では、分子間の相互作用が無視でき試薬の効果が判定しやすい固定化subtilisinを主に用いて、そのrefoldingに対する種々の特徴を持つ塩などの効果を調べた。その結果、カルボキシル基を持つ有機酸塩はすべて各種無機塩より有効であることが認められた。酢酸塩とプロピオン酸塩が最も効果的であり、コハク酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩など複数のカルボキシル基を持つものはやや効果が弱く、アスパラギン酸塩などは無機塩よりやや良い程度であった。またプロピルアミンおよびトリスの塩は全く効果がなかった。このように、カルボキシル基を有し、ある程度の疎水的部分を持つ電荷-1の陰イオンが効果的であること、陽イオンに関しては疎水的部分も含めイオン全体のかさが大きすぎると全く効果がないことが判明し、イオンは部位特異的に作用することが示唆された。カルボキシル基には水素結合能があるが、非イオン性で水素結合を形成しうるものとしてアルコール、ポリオールに効果を調べた結果、45%エチレングリコール(EG)中で比較的効率よくsubtilisinのrefoldingが起こり、必ずしも高濃度塩は必須でないことが明らかとなった。45%EG に 1M LiCl を添加することでrefolding速度は酢酸塩の場合と同程度まで上昇し、EGと塩の加算的効果が確認された。ポリオールにはタンパク質の Native 構造安定化作用があるが、酢酸塩も実際に同様な作用を持つことが認められた。以上より、subtilisinの高次構造形成には、好ましくない静電的相互作用の抑制および高次構造安定化が重要であり、プロ配列はそれらに加えてプロテアーゼ活性を抑制することでsubtilisinの高次構造形成を助けると考えられる。
|