研究概要 |
膜蛋白質の2次元結晶化法として,界面活性剤を透析で除きながら,リン脂質2分子膜に組み込ませ配向させる方法を,好熱性細菌のATP合成酵素(F_0F_1)で試みた。F_0F_1は酸化的リン酸化あるいは光リン酸化の終末に位置し,エネルギー産生系の中心的役割を担っている酵素である。この膜酵素は膜を介してのH^+の電気化学ポテンシャル差を利用し,H^+の輸送と共役させるかたちでADPとPiからATPを合成する。先に好熱菌のF_0F_1の水溶性部分F_1の構造を2次元結晶に基づく電子線結晶構造解析により3次元再構成した(Ishii et al,1993)。最近,牛心筋ミトコンドリアのF_1の構造が35年目にしてケンブリッジのグループにより2.8Åで決定され,nature誌の表紙を飾った(Abrahams et al,1994)。これは先にラットの肝のF_1について報告された3回対称をもつ構造(Bianchet et al,1991)を否定するものであり,ヌクレオチドの結合様式に関して非対称構造の報告であった。また大腸菌からヒトにいたるまであまねくF_1のサブユニット構成がα3β3Υ1δ1ε1であることを確定した。このような情勢の中,本研究ではこの膜酵素の膜内在性部分F_0を含めた全体像を明かにすべく2次元結晶化の条件検討を行った。また,H^+-ATPaseには阻害剤に対する感受性やアミノ酸酸配の相同性等から2つのタイプ(F-type,V-type)が知られていたが,他の種の好熱菌から単離精製されるV-type ATPase についても同様の方法で2次元結晶化を試みた。
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