マウス繊維芽細胞、NIH3T3を材料としたこれまでの実験より、PKCδがAP1/Junを効率よく活性化すること、さらに、Rasのdominant negative 変異体を用いた実験によりこれにはRasの活性が必要なことを明らかにしてきた。ただし、TRE-tk-CATの発現を指標としたAP1/Junの活性化に対する活性型Rasの効果は、活性型PKCδのものと比べて10分の1程度と低く、Rasを介したシグナル伝達経路のみならずPKCδに特異的なシグナル伝達経路がAP1/Junの活性化に必要であることが予測された。さらに、キナーゼ活性を失わせたPKCδの変異体が、活性型PKCδにより引き起こされるAP1/Junの活性化に対してdominant negativeに作用することから、PKCδはその下流のシグナル伝達を媒介する蛋白質と、かなり安定した複合体を形成するのではないかと考えた。この蛋白質を同定するため、PKCδをプローブとし、NIH3T3細胞のmRNAをもとに作製したcDNA発現ライブラリーをスクリーニングした結果、複数のcDNAを、PKCδ結合蛋白質をコードするものとして分離することに成功した。現在これらの生理活性について検討中であるが、あるものは、細胞を飢餓状態に置くことにより発現が誘導されることで知られる遺伝子産物と高い相同性を示した。このことは、活性型PKCδが、AP1/Junを活性化するにもかかわらず細胞増殖に対しては抑制作用を示すという以前の知見を説明する上で有力な手がかりとなる可能性がある。今後、AP1/Junの活性化に大きく影響を及ぼすERK、JNKの活性を指標に加え、AP1/Jun活性をコントロールするシグナル伝達経路を解析していきたい。
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