1.Dominant Negative Mutant遺伝子を導入・発現させた細胞株の作製 MAPキナーゼの変異遺伝子を、強力な発現プロモーターであるelongation factor promoterの下流に組み込んだ発現プラスミドを作成し、Swiss3T3、PC12およびMDCK細胞に導入した後、G418に対する薬剤耐性を指標に遺伝子が導入された細胞を選別した。変異体の発現量をウエスタンブロッティング法により解析した結果、Swiss3T3およびPC12細胞では変異体の発現量が少ない細胞株しか得られなかったが、MDCK細胞については内在性のMAPキナーゼ量の数倍程度変異体が発現している細胞株を幾つか得ることができた。 2.HGF刺激によるMAPキナーゼの活性と局在性の変化の解析 MAPキナーゼの変異体が多く発現しているMDCK細胞株において、HGF刺激によるMAPキナーゼの活性化と分散運動促進の程度について解析を行なった。その結果、ATP結合部位に変異を導入してキナーゼ活性を無くした変異体が発現している細胞において、(1)HGF刺激により活性化されたMAPキナーゼの2〜4時間後の脱リン酸化がやや遅れる、(2)HGF刺激による分散運動がやや遅れる、などの傾向が見られ、この変異体が発現量によりDominant Negative Mutantとして働き得る可能性が示唆された。 次に、MAPキナーゼの局在性の変化について蛍光抗体法により解析したところ、用いたすべての点変異体で野生型と同様にHGF刺激による核移行が観察された。これより、(1)MDCK細胞ではHGF刺激によりMAPキナーゼが核移行すること、(2)核に移行するMAPキナーゼそれ自体の活性の有無は核移行に関与しないこと、が明らかになった。
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