遺伝的刷り込み現象(genomic imprinting)とは遺伝子がたとえば父親から受け継いだときは発現するが母親から受け継いだときは発現しなかったり、あるいは母親から受け継いだときは発現するが父親から受け継いだときは発現しないといった現象のことである。このような現象は遺伝子が卵子あるいは、精子においてある修飾を受けておりそれが受精後も保持され遺伝子の発現を左右しているからであると考えられていた。遺伝子の修飾として知られるシトシンのメチル化は遺伝子の発現と負の相関があることが知られていた。そのことから刷り込み現象の起こる遺伝子ではメチル化が卵子、あるいは精子のみに存在し受精後保持され、母親あるいは父親由来の染色体特異的メチル化として母親、あるいは父親由来の遺伝子の発現をおさえているのではないかと考えられていた。 遺伝的刷り込み現象を解明するため我々は独自に開発した。ゲノムスキャンニング法を用い数千の遺伝子の中から両親の由来によりメチル化が起こったり起こらなかったりする遺伝子を複数見つけた。それらのうちのひとつ(SP2)で母親から伝達されたときのみにメチル化される遺伝子の発現を調べたところ父親に由来する遺伝子のみが発現していた。またその塩基配列はスプライシングに関与するU2AFと類似していることがわかった。SP2はマウスの11番染色体に存在する。11番染色体は父親由来のものが2本になると体が大きくなり母親由来のものが2本になると体が小さくなることが知られているのでSP2は体の大きさを調節する遺伝子である可能性がある。 そこで本研究においてSP2のトランスジェニックマウスをつくりマウスの大きさを調べたところ正常と比べたところ差はみられず、11番染色体には他にインプリントされた遺伝子が存在することが示唆される。またトランスジーンにおいてインプリントが起こるかは現在解析中である。しかし正常のマウスでSP2のプロモーター領域のメチル化を生殖細胞、発生段階を追って調べたところ母親由来の遺伝子特異的なメチル化は卵の段階ではみられず、インプリントの機構は当初考えたように単純なものではないことがわかった。
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